染物について
江戸時代に熟成した“染物の美意識”とともに、
華麗に発展した多彩な手法と職人技。
ろうけつ染め、友禅染め、小紋染めなど、平和な世が染色技術の進歩をもたらしました。
天下泰平といわれる江戸時代が幕を開けると、新しい文化がいくつも花開きました。綿布の生産量も増加して、江戸の庶民は粋でおしゃれな着物を楽しむようになりました。こうした暮らしに対する美意識の変化は、染物の発展へとつながります。「ろうけつ染め」「小紋染め」「友禅染め」などは基本の技法に磨きがかかり、より美しく複雑な染色ができるようになりました。また、同じ柄を大量に染める「型染め」の手法も飛躍的に発展しました。職人たちは着物、半纏(はんてん)、法被(はっぴ)、のれん、風呂敷、袋物などの染めに腕を振るいました。
奈良時代から伝わる防染糊を用いることで、
自由な表現と白地の美を追求した筒描き染め。
「筒描き染め」の始まりは明らかにされていませんが、最も発展して華やかだったのは江戸時代ともいわれています。
「筒描き染め」は、防染糊(ぼうせんのり)を渋紙(しぶがみ)の筒から絞り出し、生地を白く残したい箇所に置いて製作します。置き終わったら刷毛(はけ)で色付けを行い、その後に防染糊を洗い流すと、置いた部分がくっきりと白く浮かび上がります。
防染糊は、もち米と米ぬかなどを練り合わせたもので、その起源は奈良時代から室町時代とされています。もち米とぬかを使った理由は当時の主食に由来し、日本独自の染色法として伝わりました。
防染糊の固さによって手描きの線が微妙に異なり、
「筒描き染め」には同じものが1点もありません。
「筒描き染め」の最大の魅力は、職人の技と丹精込めた仕事から生まれる、鮮やかな色合いと文様にあります。
筆や刷毛を使うことにより、繊細にして流麗、時には大胆かつ奔放に、そして時には大らかにと多彩な表現ができます。
同じ絵柄であっても、すべて職人の手によって描かれ、さらに防染糊は気温や湿度によって固さが異なるので、にじみ加減や染まり具合が微妙に変化します。
そのため同じものはなく、世界にたった一つだけの染物ができ上がります。